お茶の話―11月はお茶の世界では正月

 

外国人は日本の家庭に、急須がないことに驚かれます

日本人は家で、お茶を飲まなくなりました。世界的な緑茶ブームで、日本から緑茶の輸出が増えているのに、その日本でお茶を飲むという生活が減りつつあります

「茶道」が中国人に人気です

中国から伝来して日本で長年にわたって洗練されてきた「茶道」を学ぶ中国の留学生が増えています。日本文化を体験する代表のひとつとして、建物、空間、茶道具、茶器、しつらい、所作、動作など全体を通じて、美しさ、綺麗さ、礼、もてなしなどの日本文化を学ばれています。一方、茶道を学ぶ日本の若者が減っています。

お茶は「温度」によって、味が変わります。

茶の葉ごとに入れるお湯の適温があり、「温度」管理がなによりも大切です。湯呑み茶碗に熱い湯を注ぎ、急須に茶葉をいれ、湯呑み茶碗にいれたお湯を急須にいれます。急須で蒸らしたお湯を湯呑み茶碗にいれて、均等な濃さにします。お茶は温度のグラデーションをコントロールして、飲まれる人のことを想って、最高の味をうみだします

お茶は、熱いものでした

夏の冷蔵庫に冷やした「麦茶」以外、家ではつめたいお茶は飲みませんでした。30年前にペットボトルのお茶がコンビニに並びだしたとき、水のペットボトルと同じく、こんなものは売れるわけがないだろう、お茶は家で飲むものじゃないか、と思われました。そもそも家で飲む熱いお茶と、ペットボトルの冷えたお茶が同じ「お茶」だと思えなかったのです

その前に、日本人はビールを冷やしはじめました

日本に入ってきた世界のビールは、冷えていませんでした。昔は冷蔵庫がなかったこともありますが、ビールは常温で飲むものでした。そのビールを日本人は、冷やして飲むようになりました。夏は暑いから、ラムネやサイダーを冷やすのと同じように、冷蔵庫が普及する前から、ビールを冷やして飲みだした。キーンと冷えたビールを飲むというスタイルが世界に広がりました。中国でも冷えたビールを飲むという人も増えていますが、それでも中国人の多くは冷たい飲み物は内臓を冷やすと、あまり飲まれません。「口にいれるものは、体温と同じくらいに」という中国医学の考えからです

日本では、そのビールに、お茶がつづきました

家で熱いお茶を飲んでいた日本人が、冷えたペットボトルのお茶を外で買って飲むようになりました。毎日、家で飲んでいるお茶をわざわざお金を出して飲むことなどありえないと思っていたことに、ありえないことがおこりました。飲み方のイノベーションがおこりました。この変革は、利便性だけでありませんでした。ペットボトルのお茶が美味しかったからで、一気に変わったのです

こうして、いつでもどこでも、ペットボトルの緑茶を手にして飲むスタイルが生まれました

緑茶のペットボトルの発売30年後、お茶はコンビニや自動販売機を買って飲むようになり、急須が家からなくなりました。お茶は急須でいれるものでしたが、紅茶やコーヒーと比べて手間がかかる、面倒だということで、ティーバッグでいれるようになり、ついにはペットボトルのお茶を温めて飲むという人もあらわれました。家だけではなく、飲食店でもそうなりつつあります

家で急須でいれたお茶を飲むというスタイルが消えていく

オフィスでも、急須でいれて飲む姿から、給茶機のお茶を紙コップで飲むという姿にかわり、会議室やセミナーなどにペットボトルがテーブルに整然と並ぶという姿もみかけるようになりました。好きな茶葉を買って温度管理しながら、お茶ができあがるのを待って飲むというプロセスと、お茶を以って相手のことを想うという「もてなし」の心が、急須ともあわせて消えていこうとしているような気がします


伏見町栫山は、茶を以ってお客さまをもてなすこころを大切にしたい

11月23日夜から24日の未明に、天照大御神をはじめの神様に新穀をいただいたことに感謝する「新嘗祭」がおこなわれました。お茶の世界では11月はお正月とされ、祝いと五穀豊穣を願い、趣向を凝らしました「秋のなごり」と「冬の走り」が出会い、この季節にふさわしい料理をお客さまが五感で味わっていただきたく、お料理とお料理の順番を考えました。秋の夜長、心ゆくまで

                   (社会文化研究家 池永寛明)

船場で企業人として40年間勤務したあと、社会文化研究家として、ビジネス文化、大阪の風土と文化、食文化を研究し、note日経COMEMOキーオピニオンリーダーとして、https://note.com/hiroaki_1959/などで、情報発信中