真昆布がつくった大阪食文化
飯蛸煮 薄豆と唐墨 さより 白魚 帆立 黄味すし 花筏八寸 |
今年の桜の開花は2週間はやい。北海道の松前城の桜も例年よりもはやく咲いた。かつて北前船で賑わった江差の旅庭群来に泊まり、日本料理を食べた。旅館より25㎞以内の食材で調理された料理の数々に感動したが、とりわけ出汁が上品な旨みと甘味がでて絶品だった
函館沿岸エリアで採取された、幅広で厚みのある真昆布を3年寝かせ粉吹きにしてひいた出汁だった。江戸時代から現在においても、大阪料理の出汁に使う昆布出汁は真昆布が多い。大阪の水と相性がよく、江戸時代の諸国の台所と言われた大坂では、昆布と言えば真昆布だった
それはそう。真昆布は、松前漬けと鰊(にしん)の加工物や肥料とともに、江戸時代に蝦夷地と呼ばれた函館・松前・江差の湊から、北前船で、日本海・瀬戸内海を渡って、大坂に運ばれた。大坂が天下の台所と呼ばれる日本最大の商業都市となったのは、この北前船による日本中をつないだ交易・情報・文化ネットワークによることが大きい
日本料理の本質は、出会いもの。地域ごとに、旬の食材が出会い、それぞれを混ざりあわせて、妙を究めた。山から野から海から川から集めた新鮮な食材と、昆布・鰹・鮪などの材料の配合比率を、季節ごとに変えて、地域の水を使ってとりだした出汁を掛け合わせ、地域独自の料理をつくりあげた。日本料理の出汁には、地域ならではの文化が埋め込まれている。
出汁は地域文化である
日本料理栫山の今月の料理では、この真昆布と、キハダマグロを原料とした、しび節とよばれるまぐろ節を混ざりあわせた出汁をとった
江戸時代の天下の台所大坂に、魚が集まった。堂島の米市場、天満の野菜市場とならぶ、雑喉場(ざこば)の魚市場は江戸堀・京町堀などの西にあり、魚問屋が軒をならべた。蝦夷地の昆布とともに、遠近の浦々から運ばれるのは、クジラやマグロやカツオといった大魚から、鯛や鰯など魚までいろいろ。大坂湾、淡路島、瀬戸内海、日本海、蝦夷地から、魚、水産物が集まった。明け方のまだ薄暗いなか、船から魚がおろされ、問屋に運ばれ、魚市場に並べられた
今月の日本料理栫山での料理でお出しした魚など水産物は、雲丹、車海老、鮑、鰹、伊勢海老、飯蛸、さより、帆立、白魚、甘鯛、蛍イカ、サクラマスなどを、豊かな食材に感謝する
山菜の緑が広がりはじめた。寒い冬を乗り越えて育ってきた山菜の生命力を春に食べて、心身を冬モードから春モードにリセットして、エネルギーをいただく。このように旬の料理を食べることに、意味がある
蕨の磯辺巻き きなこ塩 |
春の食材は、色鮮やか。香りが良く、味が良いことは料理には重要だが、 それだけではいけない。器に盛る食材の形、盛り付け、彩りの美しさが、美味しさをより引き出す。美味しいとは「美」と「味」があわさった文字で、春の食材に相応しい言葉である