大阪と京都の夏—祭りと鱧と鰻

天神祭 八寸(鮎 蛸 柿の葉すし 海月 鮎背腰し 焼きとうもろこし)

天災は怨霊の仕業だと古代の人には信じられていた。怨霊の怒りを鎮めるために、昔の人は祭りを行った。さらに夏が近づくと、天災に加えて流行病が不安だった。悪霊を祓い疫病の退散への願いが、都市で夏祭りが行われる理由であった

京都と大阪の代表的な夏祭りに、祇園祭と天神祭がある。7月に入ると、京都の祇園祭は吉符入を皮切りに前祭の山鉾巡行と後祭の山鉾巡行、大阪の天神祭は陸渡御と船渡御と奉納花火が有名


祇園祭と天神祭の祭りの形態は少し違う。ゴブラン織で飾られた山鉾が鉦(かね)や笛の音とともに、京都の町を巡行する祇園祭。花火を打ち上げ、太鼓の音とともに奉安船や奉拝船が大川を渡る天神祭。京都と大阪のこの2つ祭りはまったく異なるように見えるが、いずれも神輿を先導する鉾や船を美しく飾ったことが、祭りを発展させた原動力でもあった

 

          釣瓶水指に五色の食材で七夕

さて大阪と京都の夏の食と言えば「鱧(はも)」。ハモの語源は「噛(か)む」「食(は)む」から。鱧はなんでも食べる、たくましく生命力豊かな魚であることから、「鱧」という漢字があてられたという

蒸し暑い時季の京都・大阪の夏祭りには滋養のある鱧が好んで食べられたが、江戸では鱧を食べるという食文化はあまりなかった。それはなぜか?西日本の海で獲れる鱧を生のまま江戸に輸送することが江戸時代は難しかったこと、江戸前の海ではたくさんの魚が獲れたこと、なによりも鱧料理に必須の骨切りに手間がかかることなどの理由から、江戸では鱧が普及しなかった

 鱧 ちり 発酵玉葱 山桃 山葵

鱧料理は料理人の技量に左右される。鱧の落としは、新鮮な鱧を締め、12時間おいた後に骨切りをして、一寸(約3ミリ)あたりに20回包丁を入れる。薄い塩水を沸騰させ、鱧の身を10秒間湯引きしたあと、氷水に落とすと、身がひらく。ひらいた鱧の水分を拭き取り、煎(い)り酒をつける

料理人だけでは、最高の鱧料理をお出しすることはできない。鱧が獲れる漁港と市場と料理人とのチームワークが必要である。新鮮で高品質な鱧の捕獲・輸送・保管、そして下処理や鱧の身の時間ごとの変化を踏まえた調理技術が、上方の夏の食文化を生み出しつづける

夏ならではのもう一品は、奥琵琶湖天然鰻(うなぎ)の白焼き。夏の土用の丑の日に、厳しい暑さを耐え乗り越える、日本古来より精がつく食材として食べられていた栄養豊富な鰻を食べる風習があり、今月の料理にお出ししました