秋風の料理「走り・旬・名残」

大阪は「えべっさん」が好き


         人形芝居えびす座の武地秀実さんのえびす舞い   


1月10日の早朝、西宮神社の開門神事で境内参道200mを疾駆して、福男を選ぶニュースが全国に流れる。十日戎は、西宮、今宮戎、堀川戎、京都ゑびす神社などで開催される、この福笹の「十日戎=商売の神=えべっさん」は近畿で多いが、関東の商売繁盛は熊手の「酉の市」が多い


「えびす講」が、室町時代に生まれる。農民・漁師・商人のなかで、「五穀豊穣・大漁・商売繁盛」祈願の信仰として、えびす舞いとともに、広がる。えびす講の祭礼日として、旧暦の10月20日は百姓えびす、1月10日は商人えびすとして承継された

 

このえびす信仰を背景に、「誓文払い」という行事がうまれる。

江戸時代に、大坂や京都の呉服店で、年に一度の安売りがおこなわれた。呉服の仕立ての際にあまった端切れを竿につるし、軒から通りに突き出して、お客さまにお安くして販売した。年に一回のチャンスとして、買いに来られる人々で賑わった

 

えびす講の旧暦10月20日に、商売上の駆け引きで、お客さまを欺いた罪を払い、神罰を免れることを祈る目的で、「誓文払い」が始まった。現在も商店のバーゲンセールのルーツはこの誓文払いである。


10月の伏見町栫山のテーマは秋風           

今月のテーマは秋風。多彩な秋は、刻々と風が変わる。秋風は、金風や白風とも言われる。秋の訪れを知らせる立秋に吹く風、残暑を伴って初秋に吹く風、冬を忍ばせながら吹く晩秋の風。秋風は多様

秋は一年のなかで、最も食材に恵まれる。「走り」「旬」「名残」という言葉がある。四季折々の自然の恵みを得て育った食材は、収穫時期によって味が異なる。「旬」とは食べごろを迎える最盛期に食材。旬の前に季節を先取り、新しい季節の訪れを待ち望むかのように出はじめのものをいただくのが「走り」。逆に、旬が過ぎた頃、去り行く季節を惜しみつつ味わうのが「名残」

豊穣の秋の食材は、派手さはなくても、味がよく、栄養豊かな食材。それらをまぜあわせ、身体に取り入れることで、長く寒い冬を乗り切る準備をはじめるのが、秋の料理。今月の伏見町栫山の料理は


木の実のとうふ  -子持ちの鮎煮浸し 柿の葉茶で  -松茸 すっぽん 春菊 奉書焼き

-鯛 雲丹 造り あしらい  -伊勢海老 湯引き 難波葱 赤酢たれ

-サルナシと梨のシャーベット -九絵 お吸いもの 柚子 梅肉

-天然木の子そばの実 唐墨銀杏 車海老菊花浸し -焼栗 -煮え花

-鰊と茄子 焚き合わせ -新米と鮭 イクラ 枝豆

走りと旬と名残の食材の組み合わせ、余韻を残し、食材をさらに旨く、最高の料理に仕上げて、お客さまのこころが満たれますように

                   (社会文化研究家 池永寛明)

船場で企業人として40年間勤務したあと、社会文化研究家として、ビジネス文化、大阪の風土と文化、食文化を研究し、note日経COMEMOキーオピニオンリーダーとして、https://note.com/hiroaki_1959/などで、情報発信中